• インプラントの術式

    インプラントの手術には、「1回法」と「2回法」があります。大きな違いは、歯肉を切開する手術を1回行うか、2回行うかという点です。

    1回法

    インプラント1回法

    厳密に言うと1回法には、インプラント体とアバットメントが一体になっているワンピースタイプのインプラントを埋め込む「1ピース」と、インプラント体とアバットメントが別々になっているものを使用する「2ピース」の2種類があります。
    いずれもインプラントを埋める部位の歯肉を切開して骨を露出させ、ドリルで穴を開けてインプラントを埋め込みます。その後、インプラントの頭部は外に出したままで、歯肉を完全には閉じません。この状態で顎の骨とインプラント体が結合するまで待った後、上部構造をアバットメントに装着します。

    1回法の特徴

    • 歯肉切開は1度で良いので、体への負担を軽減できる。
    • 手術が1回で良いので、通院回数が少なく、治療期間も短くなる。
    • インプラントを埋め込む顎の骨がしっかりとあることが条件である。
    • 骨移植や顎の骨を再生する手術が必要だと、感染リスクが高まる。

    2回法

    インプラント2回法

    1回法と同じようにしてインプラント体を歯肉に埋め込み、切開した粘膜を元通りに糸で縫い合わせます。ここまでが1回目の手術になります。
    インプラント体と骨が結合するまで2~6か月の治癒期間を経た後に2回目の手術を行います。再度、歯肉を切開してアバットメントを取り付けた後、粘膜の治癒を待ってから上部構造を装着します。

    2回法の特徴

    • 歯肉切開を2度行う必要があるため、1回法より治療回数が増える。
    • 切開した歯肉を閉じて治癒期間を過ごすため、インプラント体が外れるリスクは低い。
    • 顎の骨を作るケースにおいて感染防止につながる。
  • インプラントと天然歯の違い

    天然歯

    天然歯

    天然歯の歯根の周りには、クッションのような役割を担う歯根膜があります。
    そのため、噛むと歯はわずかに沈み込みます。また、歯根膜には、噛んだときにかかる圧力を感知して、噛む力をコントロールするセンサーも備わっています。

    インプラント

    インプラント

    インプラント体と周りの骨の間には隙間がなく、くっついた状態です。

    骨に直接くっついているインプラントには、こういったクッションやセンサーがないため、噛んだときの力がそのままダイレクトに周囲の歯に伝わります。
    噛む力を感知するセンサーは、ほかに顎の骨の周りの骨膜、噛むための筋肉、顎の関節などにもありますが、歯根膜にあるセンサーに比べて「感度」が劣ります。

    また天然歯の場合、歯肉の内側にある結合組織が、細菌などが容易に侵入できない構造になっています。インプラントでそれは再現できないため、細菌はインプラントと粘膜の間に侵入してしまうリスクがあります。
    そのため、インプラント埋入後は、歯磨きをより丁寧に行う習慣が大切です。

  • インプラントの構造

    インプラント

    そもそもインプラントとは、人工の材料を体の中に埋め込むことを言います。昔から歯科以外の治療でも多く使われていました。
    近年は特に、歯の治療法としての認知度が高く、失ってしまった歯根の代わりに骨の中に人工歯根を埋める方法を総称して「インプラント」と呼ぶことが多いようです。

    歯のインプラントは主に、顎の骨の中に埋め込む「人工歯根(インプラント体)」、歯の部分に相当する「上部構造」、その間を連結する「アバットメント(支合部)」の3つの部分から構成されています。

    インプラントの構造

    人工歯根はネジのような形をしていて、顎の骨(歯槽骨)に開けた穴にこれを埋め込んで土台とします。
    インプラント体とアバットメントはチタン製であることが多く、骨と結合しやすいという特徴をもっています。そのため、顎の骨とインプラントがしっかり固定され、自分の歯と同じように咀嚼できるのです。
    歯にあたる上部構造は、セラミックや金属など予算や好みによって自由に選択することができます。

  • インプラントに向く人、向かない人

    インプラント体を埋め込むには、顎の骨がしっかりしていることが理想です。

    骨量の少ない人

    骨の吸収

    骨が元々薄い方、歯周病などで骨の吸収が進み、骨量が少なくなっている方は、そのままだとインプラントを維持する強度が足りないため、治療が難しくなります。ただし、現在では技術の進歩により、そういった方でも、あらかじめ骨を造成するなどして治療を進めることが可能です。そういった意味で、インプラント治療非適用者というのは、そう多くはありません。

    重度の糖尿病・高血圧・疾患など

    疾患

    注意を要するのは、重度の糖尿病や重度の高血圧の方、心臓・腎臓・肝臓に重度の疾患のある方です。そういった方は、疾患のせいで全身の細胞のエネルギーが不足していて、骨の代謝が悪く、インプラント治療を行ったとしても、インプラント体と骨との結合がうまくいかない場合があります。細菌と闘う免疫細胞の力も衰えているため、治療後の歯周病菌などへの感染リスクも高まります。

    また、血友病や白血病など血液に病気のある方は、自己免疫機能が極端に低下しているため、病気が治るまでは、原則インプラントはお勧めできません。インプラント治療の前に、問診や全身の検査などをきちんと行うのは、術中・術後のトラブルを避けるために、最低限必要なことなのです。

    喫煙者の方

    喫煙者

    また、一見、健康体でも長期間ヘビースモーカーの方は非適用者になる可能性があります。タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる働きがあります。そのため、常習的にタバコを吸っていると、血流が悪くなり、インプラントを支える骨や歯肉に十分な酸素や栄養が行き届きません。細菌への抵抗力も弱いため、どんなにメインテナンスを頑張っても、インプラント周囲炎になる可能性が高いのです。

    18歳未満の方、85歳以上の高齢者

    高齢者

    そのほか、年齢的にインプラントに向かない層もあります。まず18歳未満の若年層は、骨が成長途中のため、噛み合わせなどに変化が生じる可能性が大で、顔に歪みが出るリスクもあります。また、85歳以上の高齢者も、体力的な不安からお勧めしていません。

  • チタンが広げたインプラントの可能性

    歯を失った人がインプラント治療で自分の歯と同様に噛めるようになる。それを可能にしたのは、チタンという金属があったからと言っても過言ではないでしょう。

    そもそも人間の体は、外から侵入する異物に拒絶反応を起こし、排除しようとする機能をもっています。ところがチタンは、インプラントとして体の一部である骨に埋め込んでも、拒否反応が起こりません。それどころか、生体親和性が高く、体に馴染む性質があるのです。そのため、チタンを人工歯根として骨に埋め込んだとしても、体は自分の骨だと認識し、その上、時間の経過とともに骨と結合します。つまり、外れないということです。

    チタンが骨と結合するのを最初に発見したのは、スウェーデンの整形外科医、医学者、歯学者であるP・I・ブローネマルク教授です。

    1952年、ブローネマルク教授は、微細血流の研究、計測のためにウサギの膝の骨に埋め込んでいたチタンが取れなくなっていることに気づきました。調べてみると、チタン製の実験装置のネジに骨が結合して、外せなくなっていたのです。

    ブローネマルク教授は、後にこの現象が人体にも応用できることを確認し、チタンが生体と結合する現象を「オッセオインテグレーション」と名付けました。オッセオ(Osseo)とは「骨の」、インテグレーション(Integration)とは「結合」「一体化」などを意味します。

    そして1960年、このオッセオインテグレーションを利用したインプラントを開発しました。15年以上にわたって臨床研究を繰り返し、安全性を認める臨床データが揃った1981年、歯学会に学術論文を発表しました。その発表は歯学界に一大センセーションを巻き起こし、以来、世界各地の臨床現場で、チタンを使ったオッセオインテグレーテッド・インプラントが行われています。

    チタン製のインプラントが骨に埋め込まれると、骨とインプラントの間に徐々に新しい骨が形成されます。素材や部位、個人の骨質にもよりますが、2~6か月ほどで骨の中に完全にインプラントが固定されます。インプラント治療は、こうしたチタンの特性があってこそ成り立つ治療法なのです。

  • はじめに – インプラント治療最前線 –

    みなさんは、歯科医院にどのくらいの頻度で通っていますか? 歯が痛い、ぐらつく、歯肉に炎症が起きている、噛めない……など、「何らかのトラブルがない限りは行かない・行きたくない」という方が多いのではないでしょうか。つまり、歯科医院は、「困ったときに駆け込む特別な場所」になっているかもしれません。

    そういった方々の意識を少しでも変えたいという思いで発信しております。歯科医院を虫歯や歯周病を治療する場所としてだけではなく、健康な歯や体を維持していくためのサポーターとしてとらえ、ぜひとも頼っていただきたいのです。

    超高齢化社会に突入している今の日本では、健康で自立して生きられる「健康寿命」を延ばすことが大きな課題になっています。そして近年、「健康長寿」の実現のためには「口腔内の健康」が非常に重要であることが、数多くの医学的な研究でわかってきました。口腔内の健康、つまりは歯や歯肉の健康こそが、心身の健康の鍵を握っているのです。

    私たちの体は、毎日食べるものから作られていて、何をどれだけ食べるかで体のコンディションは違ってきます。健康ブームの今、できるだけ体にいいものを食べたいと思い、テレビや雑誌などでおすすめの食材や食べ方が紹介されるたびに、飛びつく方も多いようです。

    でも、考えてみてください。どんなに体にいいとされるものでも、しっかり噛める歯がなければ、思うようには食べられません。体にいい食事は、食物をしっかり噛み砕くことのできる歯があって、はじめて成り立つのです。繊維質の多い野菜やフランスパン等、噛めば噛むほど味わい深くなる食品は18本以上の歯がないと、おいしく噛むことが難しいと言われています。

    虫歯や歯周病の悪化などによって、歯を失ってしまうと、噛み合わせが悪くなり、噛む力は衰えます。その状態を放っておくと、口腔内だけでなく、全身の機能低下を招きます。結果、消化器系のトラブル、高血圧、糖尿病など、さまざまな疾患の一因になってしまうのです。

    また、今後詳しくお話ししますが、噛むという行為そのものも、全身の健康と深い関わりがあります。たくさん噛むと自律神経が刺激されて、脳の働きが活性化します。そのため、毎日しっかり噛んで食事をすることは、認知症の予防にもつながるとされています。

    さらに、咀嚼回数が増えるほど、唾液の分泌量が増えるというのも大きなメリットです。唾液には、食べ物の消化を助ける、味覚を高める、口腔内を洗浄するなど、さまざまな働きがあります。これまであまり噛まなかった人が、よく噛んで唾液をたくさん出すようにしただけで、体調が良くなったり、不定愁訴が治ったりすることもあるほどです。しっかり噛むことは、「健康長寿」に不可欠な条件と言えるでしょう。

    今は噛むことに支障がないという方でも、将来大切な歯を失って後悔しないように、日々のブラッシングや歯科医院での定期検診やクリーニングなど、しっかりケアをしていくことが大切です。一方、既に虫歯や歯周病が進行し、やむなく歯を失ってしまった方は、そのまま放置しないようにしましょう。失った歯に代わる歯を補って、不具合なく食事ができるようにする必要があります。

    人工的に歯を補う場合の選択肢は、「義歯(入れ歯)」「ブリッジ」「インプラント」の3つです。中でも、ここ20年の間に世界的な普及を遂げ、目覚ましく進化しているインプラント治療は、見た目も機能面も、「第二の永久歯」と言われるほど、一度歯を失った人に再び「噛める喜び」を与えてくれる画期的な技術です。

    ただし、外科手術を伴う、治療費がかかるなど、入れ歯やブリッジに比べて、ハードルが高く感じる方が多いのも事実です。インプラント治療について詳しくは知らないまま、イメージだけで敬遠している方もいらっしゃるでしょう。

    このコラムの目的は、「噛む」という当たり前のことができなくて悩んでいる方々に、正しい情報を提供し、より良い選択をしていただくことにあります。ほかの誰かではないご自身が納得のいく治療を受け、しっかりとおいしく噛めるようになり、口腔内の健康を取り戻す。そして健康寿命が延びる……そんな風に患者の人生が好転するお手伝いができたら幸いです。本書を手に取った方には、ぜひその体験をしてほしいと思います。多くの患者のQOL(生活の質)を改善することは、歯科医師としての私の生きがいです。

    2022年7月

    歯科医師・歯学博士 冨田尚充

03-6379-1185

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